第1回 なぜ勉強をするの?

「なぜ勉強をせんといけんの?」「こんなこと将来使うの?意味ないじゃん」

塾の講師をしていますとよく子供たちに聞かれる質問です。質問をするのは、体も大きくなり、勉強内容がだんだんと抽象的になってくる中学生以降に多いです。勉強することの根源ですので、この質問にはできるだけていねいに説明したいです。

前提として、子供たちの疑問はある意味でもっともで、すべての勉強が役に立つかどうかはわからないし、今生活に必要ないことを勉強していると実感しているからこそ当然の疑問なのです。ここで気を付けないといけないのは、実際に役に立つかどうかよりも「今勉強している内容がよくわからない(できない)」「単元の内容に興味がわかない」というのが本音であることもあります。その場合、わからない問題を1つずつ教えていき、その単元ができるようになってくると「なんでこんな勉強をしないといけないの?」とはいわなくなります。つまり、子どもたちの本音をきちんと理解していないと、ただ正論を言っておしまいということになりかねません。

以上の前提をふまえて次のように説明をします。

  • 実例をあげて説明をする
  • 勉強の本来の意味も説明する
  • 将来の年収にもかかわることを説明する

【実例をあげて説明をする】

例えば数学の関数の単元を勉強しているすると
「関数を勉強するといろんな解析にも役立つようになったりするよ。スポーツ科学って知っているかな?今では野球やサッカーを含めたすべてのスポーツではボールの軌道、回転数、動作なんかを解析して、投げ方や振り方、けり方といった体の動かし方が精密にわかるんだよ。スポーツの技術がどんどん向上しているのは、関数のおかげともいえるよね。だからしっかり勉強していると最新の技術でトップアスリートをサポートする職業なんかにもなれるかもね」

このように、何かの実例をあげることで説得力がでます。今やっている勉強が何につながっているのかもわかればモチベーションにつながるでしょう。子どもが何に興味を持っているかを知っているとより具体的で的確な話ができます。

【勉強本来の意味について説明する】

勉強とはただ単純に知識を覚えることだけではないということを説明します。
「勉強本来の意味は、頭の使い方の訓練であり、強靭な頭脳を作ることなんだよ。例えば、どんなスポーツでも、必ず走る練習をする。あまり走らない柔道のようなスポーツでも、アーチェリーのようなとまって見えるスポーツも、必ず走る練習が組み込まれまれている。それは、足腰の強さはすべての運動能力の土台だからなんだ。土台があってこそ、すばやく力強い高度な技が実現できるんだ。

勉強の中でも、計算や文章を読む力はすべての基礎になる。一見、生活で役に立ちそうにない数学の証明問題は、論理的思考能力を身に着ける訓練なんだ。物事を論理的に考えることができると、話す順序も整理できて、説明も上手になるし、何かの問題を解決する際にも役立つ。生活では使わなそうな勉強も目に見えない土台を作っているんだよ。

また理科の実験ではおそらくこうなるだろうと『仮説』を考え、それが本当なのか実験して試す『検証』をおこなう。この考え方は社会に出て働くようになれば常にやり続けることなんだ。理科はただの暗記だと思って勉強していると役に立たない。しかし、実験の本質を習得していれば新しいことにチャレンジする際に大いに役立つ。

こんな風に、勉強してきた経験を土台に、社会に出てから必要な勉強をするときや、新たな製品やサービスを開発するときに活かすことがができる。つまり、勉強をすることの本来の意味は自分のやりたいことが見つかったときや乗り越えるべき試練に備えて、頭を鍛えることなんだよ

「将来の年収にも関わることを説明する」

高学歴=高収入という図式は、現代では働き方の多様性もあり必ずしもそうではありませんが、一定の傾向はあります。自分の就きたい職業を選びやすいという観点からも年収も高くなるケースが多いでしょう。その中の例をあげて説明するとよいです。次のような例があります。

大手会社の75%は英語ができる人が欲しいと思っている。なぜなら、ほとんどの大手会社は海外に事務所や工場を持っているし、いろんな国の人と仕事をしているから。つまり、英語ができると仕事や就職の幅が広がる。

大卒の年収は理系637万円、文系510万円。 得意教科「数学」は620万円、「理科」608万円で、「物理」681万円 ! 数学、理科を勉強すると年収が上がりやすい。

年収1800万円以上の人は、月に本を平均5.4冊読んでいる。それに対して年収600万円台の人は、月に平均2.5冊というデータが出ている。つまり、読書量が2倍の人は年収が3倍になるということ。

これらは大きなデータをもっとも単純化してわかりやすく結論付けています。こういった数字を示すことは子供たちが納得する材料になるでしょう。

現代の日本の子どもたちは物があふれた社会の中で成長しています。将来の夢や活力といったものを見出すのが難しい時代に生きているかもしれませんが、自分のやっていることにどういう意味があり、何に繋がっているのかを漠然とでもわかるようになれば勉強することにも意味を見出せます。

将来の夢や活力というものは「ホンモノ」とふれあい、体験し、感動することが一番です。いろいろな体験をしたり、新しいことにチャレンジできる環境を作ってあげることが大切です。また、子どものやっていることに興味をもち大人も一緒に楽しんだりできるとさらに良いでしょう。子どもたちのやりたいこと、興味を持っていること、何をスゴイと思っていて、何がダメだと思っているか話しあってみたり、お父さんお母さんが今の子どもと同じ年齢のときの体験談や経験談なども効果的です。子どもたちはそういった会話の中から将来のことを考えていくようになります。

「なぜ勉強をするのか」は「やりたいことをやることため」というシンプルな答えにもたどり着けるのではないでしょうか。